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ETA ②

ETA2020年問題





皆さんは【ETA2020年問題】をご存じでしょうか?

そもそもETAって何?って思う方もいらっしゃるかもしれません。

(ETA①ブログ参照)


ETA①のブログの通り、

2002年にスウォッチグループから発信されたアナウンスが

時計業界に大きな混乱を巻き起こす引き金となりました。

当時、ETA社がエボーシュ(半完成品)を納品していたメーカーは


・パネライ

・IWC

・タグホイヤー

・ブライトリング

・フランクミュラー


など、90年代には約80%以上のメーカーに採用される程の信頼とシェアを獲得しました。

ETA製ムーブメントが選ばれる理由として、主に下記の理由が挙げられます。


・(ムーブメント専業メーカーとして)大量生産されるので、安価で供給される。

・ムーブメントに信頼感と安定感がある。

・メンテナンスに対応出来る技術者が多い。


非常に優秀なETA製ムーブメントですが、

冒頭で述べたようにスウォッチグループが

2002年に「2006年限りでエボーシュのスウォッチグループ以外への供給を終了する」

と衝撃的な発表をしたのです。

これに時計業界は大混乱をしました。

「ETA」は世界の時計メーカーから最も採用され、

常に最上級のコストパフォーマンスを誇ってきただけに、

そのエボーシュが使用出来なくなるのは、

時計メーカーにとってはまさに死活問題だったんです。

数多くのメーカーが方針転換せざるをえなくなりました。

スウォッチグループの創始者「ニコラス G ハイエック氏」はこう言ったそうです。


「スイスの時計メーカーは自社開発を放棄し、

ETAのムーブメントを搭載して商品を高額で販売する現状が

スイスの時計工芸を堕落させているのだ」と。


この発言に多くの時計メーカーは反発し、

スイス競争委員会(以下COMCO)の仲裁が入るほどでした。

紆余曲折がありましたが、

2020年まではムーブメントの供給が行われる事になったのです。

これが【ETA2020年問題】です。


当時、各メーカーが同じムーブメントを使い、

ブランド力だけで価格設定が行われていたのが現実でした。

自社の商品を安価で提供し、他の企業が技術開発を怠り、

ブランドと時計のガワだけが違う、

ムーブメントが同じ時計がリリースされていく。

果たしてスイスの時計産業として、良かったことだったのでしょうか?

筆者としてはNOだと思います。

ハイエック氏が一石を投じなければ、

遅かれ早かれ時計産業は衰退していったことでしょう。


では、各時計メーカーはどのような動きをしたのでしょうか。


・自社製ムーブメントの開発

・マニュファクチュール化

・ETA以外からのムーブメントを調達する


この3点に方針転換する事になります。

まず資本力がある大手企業は自社製ムーブメントの開発に乗り出します。

自社製ムーブメントともなれば、自社製品にとって大きな付加価値も付きます。

設計から組み立てまで緻密な作業を要求され、

非常に高度な技術力が不可欠となる自社製ムーブメントは企業にとって

高品質、高い技術力、安心を存分にプロモーション出来るのです。

しかし、自社製ムーブメントを開発することは容易ではなく、

莫大な費用ながかかり、その上今まで使用していたETAムーブメントと同等、

もしくはそれ以上を作り出さなければならないのです。


高精度ムーブメント、高い帯磁性、パワーリザーブなど、

自社製ムーブメントを各メーカーしのぎ合いながら開発をしていきます。

こうして各メーカーが競争してくれる事は

スイスの時計産業にはもちろん、我々消費者にとっても嬉しい事ですね!


ただし、自社製ムーブメントが搭載された事により、

当然販売価格にも反映していきます。

近年「時計が高くなったな」と実感するのは

間違いなくこの生産コストの上昇によるものでしょう。


各メーカーが新素材の開発を積極的に進めることにより、

耐久性、衝撃に強く、複雑機構にありがちな厚くなってしまう欠点を

克服したムーブメントを製造可能にしました。


では、自社開発が難しいメーカーはどうでしょうか。

ETA社以外からのムーブメントを調達する必要があります。

そこで注目されたのが「セリタ社」のエボーシュです。

元々はETA社の下請けを行っていたセリタ社ですが、

自社ムーブメントの製造を成功したことにより、ETA互換ムーブメントとして、

今までETAムーブメントを搭載していたモデルに搭載することが可能となりました。

こうしたことからETA製ムーブメントを使用していたメーカーが

こぞって採用する事となりました。


現在、シェアは約30%程といわれ、

ウブロ、IWC、タグホイヤーなども

セリタ製ムーブメントを採用しております。

こうして2020年を迎えましたが、

COMCOはETA製ムーブメントのスウォッチグループ以外への供給延長を

2020年夏に決定すると当初発表しました。

しかしその後、2020年末までかかる見通しとなり

現在はその予定通り供給が停止されています。 自社製ムーブメントの開発だけではなく、 マニュファクチュール化も進んでおりますが、 現状は本来のマニュファクチュールとは若干意味合いが違ってる気がします。 本来ならば、部品一つから自社で生産することを マニュファクチュールと呼んでいましたが、 現在は「自社製ムーブメントの搭載」や「開発・設計・製造」まで行えば マニュファクチュールとされるようになりました。 汎用ムーブメントに手を加えカスタムしたものが 自社製ムーブメントと言われるのも複雑な気持ちですが… しかし、ヒゲゼンマイ・ダイヤル・ケース・針までも自社で開発・製造をする 「真のマニュファクチュール」ともいえるメーカーも存在します。 各メーカーが目指すのは、やはり「真のマニュファクチュール」ではないかと思います。 しかし、そこに辿り着くには大きな壁があるのも事実です。 莫大な費用、優秀な人材、開発力、品質、技術力。 全てが揃わないことには「真のマニュファクチュール」にはなりえないのです。 とはいえ、各メーカーがしのぎを削り製品を開発している現状は 【ETA2020年問題】が引き起こしたマイナス要素ばかりではなかったと思います。 今後は今まで以上に「マニュファクチュール」や 「自社製ムーブメント」というワードを耳にする機会が増えると思います。 この問題から発した時計業界の変化を、 筆者はこれからも注目していきたいと思います。

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