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Audemars Piguet  Royal Oak Offshore 15703ST

  • 執筆者の写真: TAKE
    TAKE
  • 6月29日
  • 読了時間: 4分

ジェンタの怒りと「オフショア」の誕生


「ロイヤルオークを台無しにしたな」

1993年、オーデマピゲが発表した「ロイヤルオーク オフショア」を目の当たりにした時、

かつてロイヤルオークを生み出した巨匠ジェラルド・ジェンタが放ったのは、

憤りにも似たそんな強烈な拒絶の言葉でした。

時計界の聖域とも言える、完璧な調和を重んじたジェンタに対し、

エマニュエル・ギエが持ち込んだのは「より大きく、より力強く、よりアグレッシブに」という、

破壊的とも言える新しいコンセプトです。この美学の衝突と葛藤こそが、

オーデマピゲの歴史を大きく変える転換点となりました。


1. ジェンタの怒りと「オフショア」の誕生

ジェンタが激怒したのは、単なる好みの問題ではありません。

彼にとってのロイヤルオークは、ステンレススチールという素材を最高級の仕上げで磨き上げ、

エレガンスとスポーツを融合させた「ラグジュアリースポーツ」の完成形だったからです。

しかし、オーデマピゲが当時求めていたのは、その枠組みを超えた進化でした。

ギエの手がけたオフショアは、ロイヤルオークが築いた「ドレスとスポーツの融合」という魔法を、

あえて破壊することで再構築を試みたのです。

それは、時計という精密機械に「野蛮な魅力」というスパイスを吹き込み、

既存のデザインコードを暴力的に拡張する試みでした。

この時、後にブランドの大きな柱となる「オフショア」という新しい生命体が誕生したのです。


2. 「Beast(野獣)」という名の歴史

1993年、ロイヤルオーク誕生20周年を記念してリリースされたこのモデルは、

その巨大なケースから、後に「Beast(野獣)」という通称で愛されることになります。

ケース径42mmというサイズは、当時としては常識を逸脱したものでした。

ジェンタが描いた「線と面による緻密な調和」とは対照的に、

ギエは「塊(マッス)の強調」という手法で、圧倒的な存在感を創り上げました。

ここで見逃せないのが、リューズやケースサイドに配置された「ラバーガード」の存在です。

金属の冷徹な輝きと、ラバーのマットな質感が対比されるこの意匠は、

単なるデザイン上のアクセントではありません。

衝撃を吸収するクッションとして、また高い防水性能を物理的に支える重要なパーツとして、

過酷なスポーツ環境下で真価を発揮する「機能的素材」の象徴なのです。

あの武骨なラバーの質感こそが、このモデルが「華やかなショーケースのための時計」ではなく、

荒波や衝撃に耐えうる「真のスポーツギア」であることを無言のうちに語りかけています。


3. 15703STという「到達点」

そして、その系譜のひとつの完成形と言えるのが「15703ST.OO.A002CA.01」です。

このモデルの潔さは、クロノグラフという複雑な機能をあえて削ぎ落としたことにあります。

ダイバーズウォッチとしての純粋性をどこまでも追求し、

300m防水というプロフェッショナル仕様のスペックを備えた結果、

42mmの重厚なステンレスケースの中で、オーデマピゲのDNAが極めて純度の高い形で結晶化しました。

内部に鼓動を宿すのは、自動巻きムーブメントCal.3120。

これは、かつて「15300ST」や「15400ST」といったブランドの基幹モデルを支えた名機であり、

約60時間のパワーリザーブを誇ります。

堅牢なケースの中で、このムーブメントが正確無比に時を刻む様は、まさに精密機械の頂点を極めた証です。


多くの要素を削ぎ落としたはずなのに、これほどまでに腕元で強烈な「圧」と「存在感」を放つのはなぜか。

それは、このモデルがオフショアの過剰なまでの力強さと、ダイバーズとしての実用的なシンプルさを、

絶妙なバランスで融合させた現代的な回答だからです。

スペックの数値以上に、この一本が体現しているのは

「伝統という名の安定を、時に破壊してでも前へ進む」というオーデマピゲの矜持そのもの。

時代という潮流に流されず、自身の審美眼でこの「野獣」を選び取ること。

それは、ブランドが積み上げてきた激流のような物語を、そのまま腕に巻くということなのかもしれません。

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